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天野高元「オール・イン」

 お薦め本、紹介。

 天野高元「オール・イン」(宝島社)

 将棋のプロを目指す養成機関「奨励会」。筆者は、そこで
三段まで昇ったが、プロにはなれず年齢制限で退会。そんな
元奨励会員が綴った半生記です。


 ただ単に夢に破れた男ってだけなら、よくある話。たいして
興味を持ちません。夢破れ打ちひしがれている筆者を襲ったの
は、ガンの宣告でした。「舌がん」、それもステージ4。

 全6章の本ですが、第5章以降だけ読んでも、十分読み応えは
あります。筆者は1985年生まれ。まだ30歳にも満たないわけです。
若くして死を覚悟し、舌を摘出する手術を受け、発話もスムーズ
にできなくなります。
 それでも彼はこう言います。

 「普通の声」を失った僕だったが、そこに悲しみはなかった。
 もともと死ぬかもしれなかったところ、声を代償に差し出す
ことで、まだ生きることができる。それには感謝の気持ちしか
浮かんでこない。


 さらに、将棋の修行で培った「読み」の力で、こうも分析します。

 僕に残された人生の持ち時間は、おそらくあと10年もない。
それが希望も悲観も含めない「現実的なところ」だと思う。
 しかし、僕はそのことについて、いまは悲観したくない。
 手術でそのまま死ぬかもしれなかったことを考えれば、あと
10年、あわよくばそれ以上生きることができるなら、悪くない
分かれだ。


 プロになる夢を絶たれたショック。大病を患い死を覚悟した
恐怖。……でも、この本全体を通じて読むと、必ずしも筆者の
悲壮感だけが漂っているわけじゃありません。むしろ、残りの
人生を力いっぱい生きる―そんな力強い決意さえ感じさせます。

 将棋を知らない人でも、大丈夫。専門的な話は、ほとんど
出てきません。ぜひ読んでいただきたい一冊です。
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コメント

No title

今しがた、彼の訃報を聴きました。
30歳で亡くなるなんて・・・・。
とても悲しいです(/_;)

村山さんもそうだけど、若くにして亡くなる人は神様に愛され過ぎているのかな、と思ふ・・・・・。

Re: No title

 コメントありがとうございます。
 著者のお知り合いの方なのでしょうか? 私も今朝のニュースで知って驚いています。

 病気を知った時から覚悟はされていたでしょうが、それにしてもあまりに若い。自分は将棋は弱いけれど、さして大きな病気をせずにここまで生きてこられたのは幸せなことなんだなぁ~ってつくづく思います。

 日本人男性の平均寿命が伸びて盤寿(ばんじゅ=81歳。将棋盤の桝目の数から来た言葉です)に迫る勢い。天野さんは、その半分にも満たなかったわけで、まだまだやりたいこともある。志半ばって状態だったでしょうが、本を著し、一所懸命に対局する姿を周りに見せつけたその影響は、決して少なくないものだと思います。私自身も、彼の本を読んで大いに勇気づけられた一人です。

 どんな人間も、やがてはその命の灯が消える日が来る。そんな当たり前のことも、日々の生活に追われ、同じ毎日を繰り返していたら、ウッカリ忘れるものです。私は40歳になって愕然としました。これまでの人生で積み上げてきたもののあまりの少なさに。ほとんどゼロ。ゼロは何回掛けてもゼロですから、これまでの半生をもう一度繰り返したところで、生涯に積み重ねる業績はやっぱりゼロ。結局、何も残せず死んでいくのかな? って思うと、空しく感じました。

 でも過ぎたことを悔やんでも仕方ありません。残された時間を少しでも有意義に使えるよう、精一杯生きていくしかないですね。天野さんの本は、生きることの素晴らしさを教えてくれるものです。未読の方には、ぜひ読んでいただきたい本ですね。ご冥福を心よりお祈り申し上げます。
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